
- Vol.8
- 10.02.22
人は死んでも作品は残る

日本SF大賞は1980年に創設されたもので、その年度内に発表されたSF作品が対象となっています。この第30回大賞受賞作品に、初のことが起こりました。昨年の3月に逝去された作家・伊藤計劃さんの小説『ハーモニー』(早川書房)が受賞したのです。すでにお亡くなりになった方が受賞するのは初のこと。伊藤さんは、この受賞作の「ハーモニー」をほとんど病院のベッドの上で書き上げたそうです。
また、つい最近アニメ化された「グイン・サーガ」の作家・栗本薫さんも、昨年五月に逝去されましたが、特別賞を同賞で受賞しています。昔はクイズ番組に中島梓名義で出ていて、顔も作品もよく知っていた方だったので、逝去のニュースは大変なショックでした。「グイン・サーガ」(早川書房)は長編ということで有名で、なんと130巻をもって絶筆となりました。
「人は死んでも作品は残る」と言います。
作品といっても、小説だけではないと思います。映画でもいいし、日記でもいいでしょう。その人が生きていたという証拠は、亡くなった後もたくさん残っています。若くして急逝した伊藤さんが残した作品の数々も多くの人に読み継がれていくはずです。伊藤さんが亡くなった後に生まれた子供達も読むことになるでしょう。作品によって、永遠につながっていく物語の強さを感じます。作者の名前もそれと一緒に長く残ることを願ってやみません。
実は、私も同じ本に作品を掲載された方が亡くなった後だったので、一連のニュースを感慨深くみていました。その時、悲しみと同時に「作品は残るんだなあ」ということを深々とかみしめていた最中だったのです。実際、その場に立たされてみると、作品が変わらずにあるのに、それを生み出したものの不在が本当に不思議で不思議でたまりませんでした。残るからこそ空しさ寂しさも募りますが、それ以上に残していってくれてありがとうという感謝の気持ちも強かったです。これは栗本さんにも伊藤さんにも言えます。
残るものと残らないもの。それがあるから、世の中は儚く感じられ、ものの大切さが身にしみるのかもしれません。肉体のあるものはどうしても早くになくなってしまうでしょう。けれど、もっと長く残り続けるものに、想いを託せた人達を悼み、うらやましい気持ちです。自分が死ぬ時には、何かしらそういったものを子供や社会に残すことができるような人になれたらと思います。
未完の長編を書いた栗本薫さんの絶筆「グイン・サーガ」130巻のあとがきには、今岡清さんが闘病しながら絶筆にいたった様子と、栗本さんの「誰かがこの物語を語り継いでくれればよい」という言葉を引用し、心動かされたという話が出てきます。
ああ、栗本さんはそういう気持ちで、作品を世に送り出したんだと、私は涙なしには読めませんでした。それを読んだ時に、ずっとぼんやり感じていた栗本さんの死がドンと胸に来たのです。
百年後もきっと伊藤さんの作品も栗本さんの作品も読み継がれていると思います。私達が、今、百年前千年前の作品に心を動かされているように――。
「ハーモニー」伊藤計劃著
「グイン・サーガ」栗本薫著
コラムニスト : 日野光里
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