
- Vol.25
- 10.07.05
命をつむぐ

人は、生きている間にいくつの足跡を残せるのでしょうか。
元気に生活している人は、そのような事を考える機会は少ないかもしれません。
しかし、自分の死と向き合った瞬間、人は生きた証を残そうと足跡を振り返るのです。
テレニン晃子さん、享年36歳。
彼女は、愛する娘の為に自分の「言葉」を残しました。
30歳の時、ロシア人のご主人と結婚した彼女は、数年後待望の赤ちゃんを妊娠しました。
しかし、妊娠5カ月のある日、激しい腰の痛みに襲われ病院へ行くと、脊髄ガンという思いもよらない診断を受けます。
それと同時に、お腹の赤ちゃんの命か、自分の命か、究極の選択に迫られ、晃子さんは自分の「死」を覚悟したのです。
そして、わずか1200gで女の子を出産し、「ゆりあ」と名付けました。
ゆりあちゃんの為にも、その後懸命に治療を続けた晃子さんでしたが、期待とはうらはらに転移が発覚。
病気の進行のせいで、ゆりあちゃんを抱く事もできず、彼女は自分の言葉を残す事を決めました。
お友達のこと、勉強のこと、おしゃれや恋のこと、母として伝えたい様々な事を、未来の娘に向けてひたすら綴りました。
その言葉は、晃子さんが亡き今「ゆりちかへ」という本となり、ゆりあちゃんだけに留まらず多くの方に語りかけています。
ダイニングテーブルを囲み、何気なく弾んだ会話の様な、そんな温かい言葉・・・。
「娘の為に、何かを伝えたい」その一心で書いた晃子さんの言葉は、まるで一編み一編み心を込めて編んだマフラーの様に、温もりを感じました。
人は、手編みのマフラーの如く、命をつむいでいるのかもしれません。
親の生きた足跡を辿り、子ども達は未来へ歩む事ができるのかもしれません。
生きているからこそ、命をつむぐ事ができる。
生きているからこそ、死を考える事ができる。
私達は今、生きています。
大切な人の旅立ちを見送った今も、私達は生きています。
そして今度は、大切な人の笑顔を守る為、私達は生きて行きます。
コラムニスト : 瀧森古都
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