感動コラム

Vol.31
10.10.04

「あれから四半世紀」

~ 決して風化させてはいけない ~

今年、あの日航機墜落事故から四半世紀経ちました。

この年に「風にそよぐ墓標・父と息子の日航機墜落事故」という本が出版されています。
これまでも、日航機墜落事故に関する書籍を見かけるごとに買っていた私は、もちろんこの本も購入し、過酷なあの事故のことに想いを馳せているところです。

 この日航機墜落事故によって、あまりにも遺体損壊状況がひどいので、歯による遺体確認の技術が格段に進歩したということを別書で読んだことがあります。本書の中にも、故人の友人である歯科医が、歯しかない遺体を一発で本人と当てたケースが出てきます。

日本人はとても遺体に関する思いが強いようです。

遺体確認にそれほどまでに労力を使うことが理解できない外国の方もいると、別の書籍で読んだことがあります。
「ここにあるのはボディだけだ」という考え方もあるようですが、私たちはやはり身体と魂というのを、そこまできっぱりと切り離しては考えられない民族なのでしょう。

 愛する家族を突然、飛行機墜落で失ってしまったことだけでも辛いのに、その後に待っている遺体確認までの気の遠くなるような作業は過酷なものです。それでも身体を持ち帰ってお葬式をしたいという気持ちは、よくわかります。
それぞれの家族のお葬式の様子も描かれてありますが、それがまた壮絶。
これでもかというほどに打ちのめされた家族達の記録には、胸をふりしぼられ、涙なしでは読めないものです。
それでも、そこに人の強さ、決して断絶されない家族の絆、優しさを見ることができた時、救われる思いもします。

 本書には6つの家族が登場し、それぞれの別れが描かれています。
特に、第三章に描かれているご家族のお葬式のシーンは印象に残りました。
亡くなられたのは取材された方のお父さん。
お父さんは元気な頃に、自分の葬式では、ひとりひとりの弔問客の顔をよおく見せてくれと息子に頼んでいました。
会社人間だったお父さんの、部下や同僚に別れの顔を見せてやりたいという思いからだったようです。

 しかし、思わぬ飛行機事故で発見された遺体は、強度に炭化した下顎と大腿の骨と皮だけ。
お葬式も、そのわずかな身体の部位で執り行わなければならなくなります。
そして、約束通り、会社から駆けつけた仲間達が、ドライアイスの中に置かれた木の根のような遺体の棺を取り囲みます。
そこで行われる最後の別れのシーンが、もう号泣でした。副社長が故人の好きだったウィスキーを、下顎にどぼどぼ豪快にかけていくのです。ドライアイスにそれがかかり、あたりはもうもうたる白い煙に覆われます。
一読くだされば、とある企業戦士の壮絶な死にざまと、それが報われた瞬間の何とも言えない感動が伝わってくると思います。

・・・・あれから、四半世紀。

ですが、空の安全を守る上で、決して風化させてはいけないこの事故のことを、四半世紀経ったからこそ、もう一度本書で振り返ってみるのはいかがでしょうか?


「風にそよぐ墓標・父と息子の日航機墜落事故」門田隆将(集英社)より

コラムニスト : 日野光里

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